双極キャリアの歩き方

双極性障害でも仕事やプライベートで色んなことをしてみたい!体調を崩してもめげずに道なき道を進みます。

もう海外旅行に行けなくなるなんて信じられない

その年三度目の不調だった。前回体調を崩してから二カ月しかまともに働けなかった。

 

双極性障害には躁とうつの時期がある。私の場合は仕事の勘が冴えてばりばり働ける軽躁の時期と、体がもたなくなるうつの時期に分かれる。気分よりも体に不調が出るのが私の特徴で、仕事をしていても机に突っ伏したくなるし、お風呂の床にへたり込んでシャワーを浴びたり、そして一番悪い時はベッドから上体を起こすことも辛くなる。

 

ちょっと自分でもこの体調の悪さは受け入れがたいものがあるし、単に気分的なものかもしれないし、と腕を立てて頭を上げてみるけれど、ぐわんぐわんしてとても何かをするどころではない。かなり差し迫った体調である。でも、昨年の秋に不調に落ち込んだ時、私は心から「このままでは予約したタイ旅行にはとてもじゃないけれど行けない。というかもう一生海外旅行なんて行ける気がしない。まだ若いのに、行きたいところはたくさんあるのに、こんなことでつまずくなんて信じられない」と悔いた。

 

自分がそこまで海外旅行に執着しているとは、そのときまで気づかなかった。しかし日常生活もままならないような絶不調期にそこまで思うのは相当だな、と心にとめた。もちろんそのときは心にとめるだけである。しかし、うつの底を打って這い上がりながら、私は結構真剣に今後のことを考えた。そもそも仕事が続けられるかどうかというレベルの状態ではある。

 

双極性障害だからといって、ここで諦めてしまっていいのか。せっかく自由になれたと思ったのに、病人然として暮らさなければいけないのか。私は暴力をふるう夫とようやく別れて間もなく、自由な生活に心残りがありすぎた。

 

まだまだ引きこもるには早すぎる、と思った。自分の限界を決めるのはやれることをやってからでもいいのではないか。海外旅行に未練たらたらならば、いつか行けるようにしよう。そのために何とか今の仕事を続ける道を見つけよう。それで体が持たなかったら、その時に次を考えよう。

 

もちろん体調が悪いのに不安でないわけがない。「いよいよ退職するしかないでしょうか」「もう一生海外旅行には行ける気がしません」と、私だって主治医に訴える。でも彼女は前向きで「会社から辞めろと言われない限り自分から辞める必要はない」「そのうち落ち着いたらまた海外に行ける。あちこち移動しないで一か所にとどまっていればいいんじゃない?」と後押しする。

 

じゃあ、と思って私はなんとか会社に戻った。回復しても、日中会社にいるだけで精一杯の日々が続いた。いつも周りが地震のように揺れていて仕事どころではない日も多かった。年末のタイ旅行はキャンセルしたけれど、それでも台湾に行った。そしてゴールデンウィークに念願のタイへ。具合を悪くしながらの旅で、私は何をやっているのかな・・という気持ちもよぎったが、やはり満足感は大きかった。

 

双極性障害だから、遠慮して生きなければいけないのか。もちろん躁うつの波が大きくならないようなコントロールは日々不可欠で、私もかなり慎重に暮らしている。でも、制限のある範囲ならやりたいことをやってもいいんじゃないか。いつ状況が悪くなるかわからないし。

 

海外旅行なんて刺激が強くて生活リズムも崩れて、双極性障害に最も悪いような気もする。けれど主治医はいいと言うし、それに何より、自分が地の底にあっても尚求めていたことなのだった。私は「双極性障害なんだからこういうことをしちゃだめ」「ああいうことをしなきゃだめ」という固定観念にとらわれていたけれど、そんな風に双極性障害を一くくりにして考えるのは雑すぎた。そうか、今の自分は何を自制し何を手に入れられるのか、と考えればいいのだな、と気づいた。本当にやりたかったことを我慢せずにやった経験は心を明るく強くする。その強さを糧に、もう少し前に進んで、もう少しやりたいことをやってみようと思う。